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 - Stage10 - なっちゃんに捧げる花火 

 

 

ようやくまともに土日の休みを確保できた。

1ヶ月以上前からずっとこの日を楽しみにしてきたのだ。

 

夏をとにかく感じようと。

あいにくの遅い梅雨明けで、まだまだ完全な夏という感じではなかったが、夏と言えばシイラだけではない。

 

 

そう浴衣だ。

悪いが浴衣にはうるさい。

 

いや、うるさいのではなくて単に好きなだけかもしれん。

いや、正直に話そう。たぶん浴衣マニアなのだ(笑)

浴衣を着た女の子が2倍にも3倍にもかわいく見えて仕方がないのである。

 

 

 

僕は団地ッコである。

その団地では毎年7月の最後の週に夏祭りがあって、このお祭りには地元の子供達がほぼ全員繰り出す。

小学校から中学生まではその団地の子の全員が同級生である。

女の子は浴衣を着ると自分のかわいさがアップするということ(男の評価が高くなること)を直感で感じ取る年頃だ。

必然的に女の子は自らが願う恋の進展を期待して、浴衣に袖を通す。

 

 

そして男は、

「俺は硬派だから女がいようといまいが関係ないぜ。」

という顔をしつつも、やっぱり気になるあの子を求めてきょろきょろしながら歩くのである。

 

当時は野球少年だった僕も例外ではなく、そんな興味無さげな顔で家を出るのである。

目当ての子はもちろんいた。

秘かに、というかクラスメートの間ではほぼ公になってしまった片想いという状況だった。

これは小学生という環境ではかなり悲惨である。

広場に出たとたんにクラスメートの女子軍団と出会った。

 

案の定、

「村岡! なっちゃん今日浴衣来てたよ。 なっちゃん呼んできてあげるよ。」

クラスにはたいてい、こういうことを率先して口走るおせっかいな女の子がいる。

片想いもクソもあったもんじゃない。

でも、なっちゃんは嫌な顔をほとんど見せずにいつも遊んでくれた。

 

 

「いいよ、俺は浴衣なんて興味ないよ。だいいち、別になっちゃんに会いたくて来た訳じゃない」

と今更ながら、かわいくない答えを口にしつつ、その場を去ることができない僕。

やがて、焼き鳥の煙でやや白んだ縁日の電球明かりの中から、彼女が姿を現した。

 

 

紺色の生地に赤い花模様の浴衣。

つややかな黒い髪に当てた赤いカチューシャがめっちゃキュートで。

 

 

ねえねえ花火をしようよ。

 

 

そう言って彼女は、花火のパックを僕の顔の正面に上げた。

その姿は僕が死ぬ時の走馬燈の一コマになるほど衝撃的に美しかった。

 

 

夜も更けて、祭りの最中に巡り会うことができたクラスメートの集まりで花火が始まった。

僕は心臓が飛び出してきそうで、彼女の顔をまともに見ることができなかった。

いつも遊んでいたし、ケンカもしょっちゅうするような仲だったけど、その日だけは顔も見られなかった。

そんぐらいまぶしくてかわいかった。

 

 

僕の半ズボンの後ろポケットにはネズミ花火があった。

クラスの女の子の足下で火を付けて、驚かせてやろうと思って持ってきたのだけど、最後まで出すことができなかった。

もっと女の子が喜ぶような打ち上げ花火でも持ってくれば良かったと後悔した。

 

 

 

 

ということで、それほど浴衣が好きな僕のために、女の子が浴衣を着て集まってきてくれたのだ。

(もちろん、甚だ自分勝手な勘違いということは自覚)

 

夕方になって女の子が続々と荒川の河川敷に集まってくる。

生ビールに手料理。

いやいや、楽しみに頑張ってきたかいがあったもんだ。

 

やがて日が暮れて、辺りが薄暗くなってきた。

この日は隅田川花火大会や浦安花火大会があった。

でも荒川の河川敷からではほとんど見ることができない。

 

買ってきた花火を楽しむ。

ほんと、みんな素敵に見える。

花火の光に照らされた女の顔はほんとに美しい。

 

 

 

僕は少し離れた土手の斜面でその様子を眺めていた。

頃合いを見計らって車へと戻る。

一つの段ボール箱を取り出した。

 

 

話は戻って数日前。

こんなものを作っていた。

 

 

 

自主制作、マサッチフレア2003

一斉に点火する方法は企業秘密。

 

8000発の爆竹、40本の筒型打ち出し花火、240発の笛&爆発型ロケット花火。

これらが数秒間のファンテリュージョンを作り出す。

隅田川にも浦安にも負けない花火。

 

きっと勝っていた。

特に危険度という点については間違いなく(笑)

 

 

女の子のほとんどは腰を抜かしていた。

でもこれが僕流の恩返しなのだ。

あの時、なっちゃんの前でこれをやりたかった。

 



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